「アンブロークン」原作の嘘で、早くから指摘されていたものの一つに、「テニアン島での日本軍による朝鮮人5千人殺害」がある。
 「アンブロークン」の著者、ローラ・ヒレンブランド |
san diego confidential氏のブログ
テニアン島における朝鮮人虐殺について問題の記述は次の2カ所である。(san diego confidential氏訳)
同じ月、米軍はサイパンに隣接する島、テニアンを攻撃した。そこには日本が労働者として徴用した、五千人の朝鮮人がいた。おそらくアメリカが侵攻すると、朝鮮人が米軍側につくことを恐れ、日本は「皆殺し政策(kill-all policy)」をとった。五千人の朝鮮人を皆殺しにしたのだった。
ほかの何千人という捕虜は、打たれ、焼かれ、刺され、死ぬまで殴られ、銃で撃たれ、斬首され、医学実験で殺され、または、人食いの儀式として、生きたまま食べられた。
「皆殺し命令」に従い、日本は五千人の朝鮮人俘虜をテニアンで虐殺した……。日本が明らかに捕虜と収容された民間人をまさに皆殺しにしようとしていたときに、原爆が帝国を壊滅させたのだった。この朝鮮人殺害について、著者のローラ・ヒレンブランドがあげている情報源は次の二つである。
Eric Lash, "Historic Island of Tinian," Environmental Services, October 2008, vol.1, 2nd edition.
Major General Donald Cook, "20th Air Force Today," 20th Air Force Association Newsletter, Fall 1998.
最初のソースについては、最近、マイケル・ヨン氏がそのソースを見つけ出した。
http://michaelyonjp.blogspot.jp/2015/09/laura-hillenbrand.html今は削除されているが、環境問題を専門としている企業、ESI社のサイトのニュースレーターである。
ESI社の質問にテニアンプロジェクトのエリック・ラッシュという人物が回答するといった内容だ。
「プロジェクトの目的は?」というESI社の質問に、ラッシュ氏はその目的の一つとして、歴史的な場所を保守整備し歴史保存局を援助することをあげている。その箇所に、「テニアンの火葬場」という写真があり、その写真のキャプションの中に問題の一文があった。
テニアン島の日本軍は5000名の朝鮮人と原住民を奴隷にしていた。
1944年6月、米海兵隊がテニアンに上陸する前に、日本軍はそれらの朝鮮人と原住民を殺害した。
この火葬炉は、それらの死体の処理に使用されたとされている。これだけである。その情報の源にはさかのぼることができない。
後者のソースは、san diego confidential氏がブログで詳しく調べている。
http://blogs.yahoo.co.jp/islavista_seaside/40036204.html米第20空軍のニュースレターに掲載された、ジェームズ・V・エドモンドソン中将の寄稿文である。
1995年のスミソニアン騒動で、原爆被害を展示しようとするような人たちを批判したこの寄稿文は、原爆投下の正当化のために日本がいかに残虐だったのかという例を多数あげている。その例の一つがテニアン島での朝鮮人殺害である。
 ジェームズ・V.エドモンドソン中将 |
私は一般には知られていないもうひとつの事件を個人的に知っている。これで誰があの戦争で本当の人種差別主義者で、虐殺者なのかわかるだろう。私の指揮するB-29のグループは、終戦までの最後の数ヶ月テニアン島に駐留していた。数年前仲間の数人が、テニアンを訪ね、地元政府の招きで空の勤務中に亡くなったアメリカ人の慰霊碑に祈りをささげた。いいセレモニーだったが、仲間は、韓国によって建立された、もうひとつの慰霊碑を目にした。それはサトウキビ畑で働くため奴隷として日本人に連れてこられた5000人の朝鮮人の一般市民を慰霊するものだった。米軍の上陸が迫ってくると、朝鮮人が米軍に協力するのをおそれた日本軍は、彼ら5000人をまとめて処刑したのだった。
これはいい話ではないが、真実で記録に残っているんだ。日本は現在自由主義の同盟国だから、持ち出すのは良くないかもしれないが、頭のいい若い大学の先生たちが、あの昔の戦争で、私たちが悪いやつだったと主張するかぎり、この話は語り続ける価値がある。(san diego confidential氏訳)
このように、ヒレンブランドが朝鮮人5千人殺害の根拠としたものは、すでに削除されて存在しないウェブページの写真のキャプションと、退役軍人が書いた寄稿文の一節だけで、どちらも一次情報ではない。
マイケル・ヨン氏は、「ゴミ箱でみつけてきた紙の切れ端を情報源だと言っているのと同じ」だと言っているのだが、まさにその通りである。
私自身、アンブロークンについて1年ほど調べてきたが、ヨン氏と同じ意見である。
ヒレンブランドは、日本軍がいかに残虐であったかを主張するために、その信憑性はまったく考慮せず、それこそ、便所の落書きのようなものを、情報源として採用することをよくやっている。そして、それを否定する一次情報の存在を知っていても、一次情報の方は使わないのである。
san diego confidential氏は、この朝鮮人5千人殺害が事実ではないことを論証しているが、私なりにまとめてみる。
テニアン島の朝鮮人慰霊碑には「約5千人の朝鮮人がマリアナ諸島で亡くなった」と書かれており、「テニアン島で5千人が虐殺された」という話は、その慰霊碑の文が間違ってエドモンソン中将に伝わったか、中将が間違って脳内変換した。
韓国政府機関は「戦前の南洋諸島に5千人強制動員」と公表しており、虐殺数以前に死者数も5千人ではない。
それもテニアン島だけでなく、南洋諸島全体の話である。
テニアンの朝鮮人は米軍上陸前の1944年6月時点で2700人、米軍占領後の1945年2月の時点では2400人であり、5千人もの虐殺は確実に嘘である。
エドモンドソン中将自身が、終戦までの数ヶ月テニアンにいたのに、当時虐殺の話を知らず、最近聞いたという。なお、藤岡信勝氏によると、テニアン島での戦闘による朝鮮人死者数は50人である。
https://www.facebook.com/rekishi.mirai/posts/252820308251290<資料1>は、對島秀子著「北マリアナ諸島からの引揚者」という論文です。東洋大学社会学研究科の紀要『白山人類学』第11号(2008.3)に掲載されています。この中で、1977年の厚生省援護局の資料で、テニアン島での戦闘による死者の統計があり、約4000人で、朝鮮人が50人となっています。結局、大元のソースは、死者数を過大に書いた韓国人慰霊碑の文章であり、それを、日本の残虐性を示す根拠としたい米国人が虐殺の話に変換し、そしてそれを、同じく日本軍の残虐性を主張したいヒレンブランドが、根拠薄弱な情報であることを知りつつも、ノンフィクションをうたう書籍の中で「日本軍が朝鮮人5千人を皆殺しにした」と断言して、それが大ベストセラーとなり、世界中に拡散されてしまった、というわけだ。
早くからこの問題を指摘していた、san diego confidential氏は、非常によい仕事をされたと思う。
アンブロークンにはこのように、日本がいかに残虐であったかを示すために、そして、そんな残虐な日本を降伏させた無差別爆撃や原爆投下を正当化するために、意図的に事実ではない話が数多く含められている。
しかし、そんな捏造に対する批判は完全にスルーし、いまだに映画を絶賛し、「人肉食のシーンなどない!」「ネトウヨの上映反対運動は言論弾圧でけしからん」程度のことしか言わない人たちが大勢いる。
「日本軍がテニアンで5千人もの朝鮮人を虐殺した」という嘘を世界中に広められて、よく平気でいられるものだと思う。
先日、「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長は、国連に対し、「歴史的な問題は追及するのに、なぜ現在進行形の人権侵害は追及しないのか」と疑問を呈したが、「アンブロークン」に対するダブルスタンダードと根は共通している。
戦勝国中心の世界観が今も世界を蔽っている。